ブラックジャック

ブラックジャックは、トランプを利用したゲームの一つである。世界のほとんどのカジノで人気が高い。カードの合計点数が21点を超えることなく、できるだけ高い点数を得ることを競う。バカラやおいちょカブと似たスタイルのカジノゲームの一種。

ルール

カジノで行われるブラックジャックでは、プレイヤーはプレイヤー同士ではなくディーラー(親、胴元、ハウス)との間で1対1の勝負を行う。プレイヤーが何人かいる場合には、ディーラーは複数のプレイヤーと同時に勝負をすることになる。各プレイヤーの目標は、21を超えないように手持ちのカードのポイントの合計を21に近づけ、その数字がディーラーより21に近づくことである。手の中のカードのポイントは、カード2~10ではその数字通りの値であり、また、絵札であるK(キング)、Q(クイーン)、J(ジャック)は10と数える。A(エース)のみは、1あるいは11のどちらかとして数えることができ、どちらの数をとるかは状況に応じプレイヤーが選択することができる。

各プレイヤーが初めの賭け(ベット)を終えると、ディーラーはカードを自分自身を含めた参加者全員に2枚ずつ配る。ディーラーの2枚のカードのうちの1枚は表向きにされ、みなが見ることができる。もう1枚のカードは伏せられている(ホールカードと呼ぶ;ヨーロッパやオーストラリアなどでは、ノーホールカードと呼ばれるルールが一般的であり、プレイヤーの行動が全て終わった時点ではじめてディーラーの2枚目のカードが表向きで配られる)。プレイヤーのカードはカジノによってフェイスアップ(表向き)の場合とフェイスダウン(裏向き)の場合があるが、現在主流になっている6デッキ以上を利用するルールにおいてはフェイスアップで配られることが通例である。この時点で、プレイヤーが21(1枚は10、J、Q、Kのうちのどれかで、もう1枚はAという組み合わせの場合のみ可能)であれば「ナチュラル21」又は「ナチュラルブラックジャック」と呼ばれ、ディーラーが21でなかった場合には、ベットの1.5倍の払い出しを受ける。プレイヤーもディーラーもナチュラル21の場合には引き分け(プッシュ)となる。プレイヤーが21ではなくディーラーがナチュラル21の場合にはこの時点で自動的にプレイヤーの負けとなる。

次のステップでは、プレイヤーはヒット(hit;カードをもう1枚引く)またはスタンド(stand;カードを引かずにその時点のポイントで勝負する)の選択を行う。ルールによっては、ヒットとスタンド以外にも追加のルールを採用しているところもある(下記「特別ルール」参照)。プレイヤーは21を超えなければ何回でもヒットすることができる。21を超えてしまうことをバスト(bust)と呼び、直ちにプレイヤーの負けとなる。プレイヤーが全員スタンドするとディーラーは自分のホールカードを開く。ディーラーは追加のカードを引く場合もあれば引かない場合もある。これはディーラーの意志で決めるのではなくカードの合計数で自動的に決定される。ディーラーは、自分の手が17以上になるまでカードを引かなければならず、17以上になったら、その後は追加のカードを引くことはできない。ディーラーが21を超えた場合には21を超えていないプレイヤーは全員勝利する。プレイヤーとディーラーが同じポイントの場合にはプッシュとなる。Aと6の組み合わせの場合、Aの扱いによって7にも17にも見なせるが、この場合にディーラーがヒットするかスタンドするかは、カジノによって異なっている。

特別ルール

カジノによってはヒットとスタンド以外の選択肢が用意されている場合がある。代表的なものを以下に示す。

スプリット (Pair splitting) 
配られた2枚のカードが同じ数字の場合、初めのベットと同額のコインを追加することで、それを2つに分けてプレイすることができる。10と数えられるカード (10,J,Q,K) は全てペアと見なすことが出来るカジノもある。また、ほとんどのカジノでは A のペアのスプリットでは、それぞれ1枚しか引くことができない。
ダブルダウン (Doubling down) 
プレイヤーは最初の2枚のカードを見てからベットを2倍にしてもう1枚だけカードを引くことが出来る。さらに追加して引くことはできない。多くのカジノでは最初の数がいくつでもダブルダウンすることが出来るが、カジノによってはカードの合計が11,10(又は11,10,9)の場合にのみダブルダウンできるルールを採用している所もある。なお、ディーラーがナチュラル21となっているかの確認をプレーヤーのアクションの後に行うカジノにおいては、結果的にディーラーがナチュラル21であった場合に、スプリットやダブルダウンによって賭け増したベット分をプレーヤーの負けとするか、無勝負として元返しとするかについてはカジノ毎に細かなルールの相違がある。
サレンダー (Surrender) 
プレイヤーの手が悪く、勝ち目がないと判断した場合に賭け金の半額を放棄してプレイを降りること。ディーラーがナチュラル21の場合には適用されない。このルールを採用しているところは稀である。
インシュアランス (Insurance) 
ディーラーの表向きのカードがAのときには、最初のベットの半額を追加することにより、保険をかけることができる。ディーラーがナチュラル21であった場合には掛け金の2倍の保険金が払い戻され、そうでない場合は没収される。これはプレイヤーにとってあまり得なオプションではないが、多くのカジノでこのオプションは提示される。

プレイの目安

以下の項目は実際にブラックジャックを行う上での簡単な指針である。これらの事項を守ることで、カジノの控除率を2%以下にすることが出来る。

基本戦略

ほとんどのカジノのゲームは、長いスパンでは、カジノ側がプレイヤーよりも統計的に有利に出来ている。 しかし、ブラックジャックはプレイヤー側の選択の幅が大きく、「基本戦略(Basic Strategy)」として知られる統計学的に最適な行動をとることによりカジノの優位をおおいに縮小することが出来る。細かいルールの相違にもよるが、基本戦略に従った場合、カジノの控除率は0.0%~0.6%程度である。なお、ごく稀ではあるが、「基本戦略」のみでプレーした場合にも、プレーヤー側が有利となるゲームが提供された例もある。

以下の戦略表はプレイヤーの手(ハンド)およびディーラーの表向きのカード(フェイスアップカード)に基づいて、プレイヤの最適な行動を決定するものである。ただし、カジノのルールや使用するデッキの数などにより影響を受けるため、すべての場合で最適なわけではない。

基本戦略の表

ただし、基本的な1デッキ、ラスベガスルールの場合である。

S:スタンド、H:ヒット、D:ダブル、SP:スプリット

ハンド ディーラーのフェイスアップカード
2 3 4 5 6 7 8 9 10 A
ハード(Aを1と数えた場合)のトータル
17-21 S S S S S S S S S S
13-16 S S S S S H H H H H
12 H H S S S H H H H H
11 D D D D D D D D D H
10 D D D D D D D D H H
9 D D D D D H H H H H
5-8 H H H H H H H H H H
ソフト(Aを11と数えた場合)のトータル
A,8-10 S S S S S S S S S S
A,7 S D D D D S S H H H
A,6 H D D D D H H H H H
A,4-5 H H D D D H H H H H
A,2-3 H H H D D H H H H H
ペア
A,A 88 SP SP SP SP SP SP SP SP SP SP
10,10 S S S S S S S S S S
9,9 SP SP SP SP SP S SP SP S S
7,7 SP SP SP SP SP H H H H H
6,6 SP SP SP SP H H H H H H
5,5 D D D D D D D D H H
4,4 H H H H H H H H H H
2,2 3,3 H H SP SP SP SP H H H H

応用戦略

基本戦略は、デッキが全て残っていることを前提としたものである。しかし、ブラックジャックにおいては、シャッフルの頻度を少なくするために、配り終わったカードは元に戻さずにディスカードトレーと呼ばれるトレーにそのまま置いておく。通常、シューと呼ばれる複数セット(デッキ)の塊を用い、この手順によって複数回のゲームをシャッフルなしで進行する。従って、一つのシューにおけるゲームのある時点で残っているカードにはばらつきが生じる。情報理論的表現をすれば、シューは記憶のある情報源である。従って、残りカードの組み合わせによって、プレーヤーが有利になっている状態が生じる。ここが、無記憶情報源であるサイコロを用いたクラップスやルーレット等のカジノゲームとの大きな相違点である。

残りデッキに、10点やAのカードが多く残っている場合にはプレイヤー有利、4,5,6等のカードが多く残っている場合にはディーラー有利になることが多いことがシミュレーション及び理論解析によって確かめられている。また、基礎戦略とは異なるプレーが最適となるケースが出てくる。説明のため、非常に人工的な2つの状況を述べる。

プレーヤーは8が2枚配られた段階で、スタンドする。ディーラーにも8が2枚配られ、16となるがルールによってディーラーはヒットしなければならない。結果として、ディーラーには8が3枚配られバーストするので、プレーヤーは必ず勝つことになる。この場合には必ず勝つので賭け金を出来るだけ大きくすることが最適となる。また、(説明のためスプリットが許されないルールであるとすると、)戦術上は基本戦略とは異なり、2枚の8をヒットせずにスタンドすることが最適な戦略となる。

ディーラーは、ルールによって、必ず6が3枚の18となる。従って、プレーヤーは2枚の6に対してスタンドをすると、必ず負けてしまう。そこで基本戦略とは異なりヒットをする。結果的に、プレーヤーもディーラーも18となるので、必ず引き分けとなる。従って、この状況はプレーヤーにもディーラーにも有利ではない。但し、負けないためにはプレーヤーが12をヒットすることが戦略上必須となる。

上記の2例のような非常に単純な状況であれば、プレーヤーが有利かどうかの判断、最適戦術の判断を即座に判断出来る。しかし、より一般的な状況においては、まず配られたカードを全て記憶することは非常に難しい。また仮に、残りのカード状況を完璧に把握していたとしても、プレーヤーが有利かどうか、どのような戦略を取るべきかを計算するためには、考えられる全ての場合について確率を数え上げる必要が出てくるので、これを人間の頭で計算することは不可能である(なお、映画レインマン等の一般向けの描写では、抜群の記憶力があり残りカードを全て記憶出来れば、ディーラーに対して有利にプレー出来ると解説されることが多いが、残りカードを記憶することよりも、残りカードに基づき確率計算を行うことの方がはるかに難しい)。

このように、残りカードに応じてプレーヤーの有利不利や最適な戦略を『厳密に』判断することは事実上不可能であるが、若干の誤差を許容すればより簡易な方法で、これらを『近似的に』判断することが可能となる。これがカードカウンティング(card counting)と呼ばれている手法である。

代表的なカウンティング手法であるHi-Loをここに示す。まずシューの配り始めにおける、カウント値を0とする。カードが開かれていくのに合わせて

というルールに従ってカウントを増減させていく。ここで、そのカウントがある一定の閾値を越えれば、プレイヤーに有利であると判断しベットを増やし積極的なプレイを行い、逆に、ある閾値以下であればプレイヤー不利判断し、ベットを減らし消極的なプレイを行う。また、戦略変更(strategy change, index change とも; 基本戦略からの逸脱)も、このカウント値に基づいて行う。但し、同じカウント値であっても、残りのカード枚数が少ない方が、よりカードが偏っていると考えられるので、上述のカウント値を残りのカードの枚数(あるいはデッキ数)で割って正規化した「トゥルーカウント(true count)」を用いることが行われる。

このようなカウンティングを利用することで、総合的にプレーヤーが有利に戦える可能性が出てくる。カウンティングはあくまで近似的な手法であるため、カウントが大幅にプラスになっていても、厳密な計算を行った場合には、プレーヤーが不利な状況や逆にカウントがマイナスでもプレーヤーが不利な状況もありえる。例えば、上記例1では残りカードが全て8だということは、その時点で-1と数えるカードも+1と数えるカードも出尽くしてしまっている訳であるから、カウントの値も0に戻っている。従ってカウント値からは、この状況は有利でも不利でもないと判断される。にも関わらず実際には、圧倒的にプレーヤーが有利な状況となっているのであるから、この場合、Hi-Loカウントは「誤判断」を行っている訳である。

そこで、カウンティングの効率の指標として、厳密に有利な状況を、有利であると判定する確率が考えられる。これがベッティングコリレーション(Betting Correlation)またはBetting Efficiencyと呼ばれるものである。上記Hi-Loと同等レベルの複雑さをもつカウンティング手法においては、ベッティングコリレーションは90%以上の高い精度を示す。即ち、プレーヤーの有利不利をかなりの高確率で判断する性能がある。

一方、あるカウンティングが正しいプレーを指摘する確率はプレーイングコリレーション(Playing Correlation)またはPlaying Efficiencyと呼ばれる。プレーイングコリレーションは通常あまり高くなく、70%程度が限界値であるとされている。

但し、これらの指標はあるカウンティング手法の性能の目安であり、どの程度プレーヤーが有利になるかは、

等によって変わってくる。これを判断するためのデータ集やシミュレーションソフト等は、専門ショップ等で購入することが出来る。

一般的に、複雑な手法はより一層の効率の上昇が期待できるが、記憶力や疲労とのトレードオフとなる。そのため、カウンティング手法にも難易度や着目すべき点によっていくつかの種類がある。

Hi-Loと同程度の複雑さの手法の代表的なのものは

KO:トゥルーカウントへの変更という操作を必要としない手法

Hi-Opt I :メインとなるカウントの他に、Aの枚数を別にカウントすることによりベッティングコリレーションの向上を狙った手法 である。

また、カウントを行うときにカードの種類によってその重みを変更(例えば5をプラス1と数えるのではなくプラス2、あるいはプラス3と数える)することによる性能向上を狙った手法にOmega II, Zen などがある。 これらの戦略は書籍やWebサイト等で有料もしくは無料で配布されており、またBlackjack Forumのような戦略研究専門雑誌も発刊されている。

有名なエドワードソープ博士の"Beat the Dealer"によって、カウンティングの有効性が一般大衆に知られるようになって以来、カウンティングで収入を得ることを正業とするカードカウンターが非常に多く出現した。また、1970年代から20世紀の終わりにかけて、カードカウンティングの研究も非常に盛んに行われた。このため、カジノはカードカウンターを排除すべく様々な対抗策を取ってきた。

まず法律的には、世界中のほとんどの地域でカウンティングを行うこと自体は違法ではないとされている。しかし、ネバダ州のように、「カジノは私的設備であるので、任意の第3者の入場を拒否することが出来る」という論理によって、高額プレーを行うカードカウンターを排除する場合もある。

また、残りカードを十分残してシャッフルすればカウンティングの収益は激減するので、これを常時励行したり、カードカウンターらしき人物がプレーしている場合に特別に行ったりするという策もある。

更に、21世紀に入り、カードカウンターを発見することはピットボスの観察という人間的な手法に頼っていたものを、機械的にプレーヤーのベットの上げ下げやプレーの変更を記録することにより、酔っ払ったふりをしていい加減なプレーをするといったカモフラージュをしている場合や、カードカウンターが負けている場合でも、そのプレーヤーのカードカウンティングの技術レベルを正しく判定する装置が導入されるようになり、高額プレーを行うカードカウンターが収益を上げることの出来る機会は大幅に減ってきた。また、バイオメトリクスを用いて脅威となるプレーヤーを同定するシステムも、主に高額の賭けが行われる所では導入が進んでいる。

さらに、連続シャッフルマシンの導入も世界各国のカジノで進められてきている。連続シャッフルが行われた場合は、カードカウンティングの効果は全くなくなる。また,連続シャッフルが行われるゲームは,「カードの流れを読んでプレー」をしたいプレーヤー(言うまでも無くこのような手法に有効性はない)も敬遠するようになる。

このように、カウンティングによってプレーヤーがカジノに対して科学的に有利にプレーすることが出来る可能性があり、またカウンティングを行わなくても基本戦略に従ってプレーするという努力を行ってプレーした場合の控除率が、カジノで提供されるゲームの中では非常に低い、という稀有なゲームであったブラックジャックも、大幅なルール変更によりその魅力は失われつつあり、また人気も徐々に低くなりつつあるのが現状である。

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